1. はじめに
調剤薬局で働く薬剤師にとって、職場環境や経営方針は働きやすさを大きく左右します。
薬剤師は専門資格を持ち、転職のしやすい職種ですが、離職には「今の職場に満足していない」という現状があります。
私自身、これまで5回の転職を経験する中で、人の出入りが激しい職場や、少人数で業務を回すしかない職場の課題を目の当たりにしてきました。
この記事では、社員が辞めやすい薬局の特徴と背景、さらに職場改善の提案を解説します。
2. 離職の現状
厚生労働省「雇用動向調査」によると、医療・福祉分野全体の離職率は14.2%で、薬剤師の離職率は約9%とされています。
しかし、職種や店舗規模ごとに差があり、大規模な薬局では16%と高くなる傾向があります。
職種ごとの離職率
- 店長職・一般薬剤師:9%
- パート薬剤師:21%(勤務条件に影響されやすい)
店舗規模別の離職率
- 小規模薬局(5店舗以下):6%
- 大規模薬局(31店舗以上):16%
大規模薬局では、転勤、不規則な勤務、人間関係の希薄さが離職理由として挙げられています。また、ルーティン業務や昇進機会の少なさも、キャリアを重視する薬剤師にとって離職の要因です。
3.薬局で社員が辞めやすい会社の特徴
薬局で社員が辞めやすい職場には、いくつかの共通した特徴があります。これらは実際の経験や業界の離職原因に基づいており、以下に具体的に掘り下げていきます。
① 給与や待遇が不十分
低賃金
業務量に対して給与が見合わない職場では、社員のモチベーションが低下します。
新しい業務や負担が増えても給与に反映されない場合、努力が報われないと感じる社員が離職を考えるのは自然な流れです。
サービス残業
一部の職場では、残業が常態化しているにもかかわらず、適切な残業代が支払われないケースがあります。
これにより「ブラック企業」というレッテルが貼られ、さらに人材確保が難しくなる悪循環が生まれます。
昇給のチャンスが少ない
年次昇給がなかったり、成果が評価されない職場では、「働いても報われない」という感情が積み重なります。
他の職場での昇給制度や福利厚生と比較し、不満が爆発することもあります。
② 長時間労働と休暇取得の困難さ
人手不足による過重労働
薬局内で社員が不足すると、残されたスタッフに業務が集中します。
一人当たりの負担が増えるだけでなく、教育の時間も確保できないため、新人は放置され、さらに離職者が増えるという悪循環が起こります。
例:ある職場では、長時間勤務の末にようやく帰宅しても、翌朝の早いシフトが待っている生活が続き、疲労が抜けないまま働き続ける社員がいました。このような状態では、離職を選ぶのも仕方ありません。
休暇取得の難しさ
有給休暇を申請すると「迷惑がかかる」と間接的に圧力を受ける職場も少なくありません。
また、制度として休暇が認められていても、「人手不足を理由に取得を断られる」といったケースが実際に存在します。
③ キャリアアップの機会不足
成長の見込みがない
調剤業務が日々のルーティンワークになり、新しいスキルを学ぶ機会が限られている職場では、キャリア志向の薬剤師にとって不満がたまりやすいです。
例:ある薬局では、資格取得の支援制度もなければ、研修や外部セミナーの案内すらない状況でした。向上心のある社員ほど「このままでは成長できない」と感じ、離職を選ぶことが多いです。
教育制度の欠如
忙しい職場では、新人教育の時間が確保できず、「自分で覚えて」という文化が根付いていることもあります。
これにより新人が孤立し、不満を抱えたまま辞めてしまいます。
例:新人薬剤師が入社しても、誰も教える余裕がなく、数日で「ここではやっていけない」と退職してしまったケースもあります。
④ 人間関係の問題
パワハラや気分屋の上司
管理職の態度が職場全体の雰囲気を左右します。
理不尽な叱責や気分による対応が目立つ上司の下では、社員が精神的に疲弊し、働き続けることが困難になります。
例:ある上司は忙しいときほど苛立ちを表に出し、些細なミスに対しても感情的に怒ることがありました。これが原因で、数ヶ月以内に複数の社員が辞めてしまいました。
意見が通らない風通しの悪さ
職場の文化として、下の立場の社員の意見が無視されるような状況では、働く意欲を失う社員が増えます。
冷たい態度を取る社員
新人に対する冷たい態度や挨拶の無視、業務に関する質問への不親切な対応などが、職場全体の雰囲気を悪化させる原因になります。
例:新しく入社した社員が先輩に質問をすると「そんなことも分からないの?」と冷たく返されるケースが続き、結局その新人は短期間で辞めてしまいました。
⑤ 会社の将来性や方向性の不透明さ
ビジョンの欠如
会社の方向性が社員に共有されず、将来が見えない職場では、安心して働き続けることが難しいです。
経営の停滞
新規事業がなく、店舗数の縮小が進む職場では、「このままでは自分のキャリアも危うい」と感じる社員が増えます。
⑥ 不正行為の存在
調剤報酬の不正請求
不正が横行する職場では、倫理観のある社員ほど不満を抱えやすくなります。
リスク管理の不備
過誤対策が整備されていない場合、薬剤師としての責任を果たすのが難しい環境に陥ります。
4. 離職率が高い薬局を見極めるポイント
① 離職率・定着率を確認
求人情報や面接時に「平均勤続年数」や「離職率」を確認しましょう。頻繁に求人が出る職場には注意が必要です。
② 職場見学を行う
実際に職場の雰囲気や働く社員の表情を観察することが大切です。
③ 口コミや評判を調べる
転職サイトや口コミサイトを利用して、過去の社員の声を参考にします。ただし、匿名性が高いため情報の取捨選択が重要です。
④ キャリアアップの機会を確認
面接時に昇給制度やスキルアップ支援の有無を具体的に尋ねることで、自分の成長につながる環境かどうか判断できます。
5. 離職率を下げるための改善提案
① 教育体制の整備
- 新人に担当者を割り当て、教育計画を明確にする。
- 外部研修やオンライン教育を活用して、忙しい時期でも教育の機会を確保。
② 公平な評価制度の導入
- 業績や努力を正当に評価し、昇給やインセンティブに反映。
- 社員の成果を可視化し、納得感のある評価を実現。
③ 労働環境の整備
- シフトの見直しや効率化ツールの導入で労働時間を削減。
- 休暇取得を推奨し、心身の健康を守る。
④ 上司のリーダーシップ向上
- 管理職研修を実施し、部下を尊重するコミュニケーションを促進。
- 定期的なアンケートでハラスメントの有無を確認。
⑤ 職場内のコミュニケーション向上
- 定期的なミーティングや社内イベントで信頼関係を構築。
- 新人を歓迎する文化を育てる。
⑥ 不正行為の根絶
- コンプライアンス教育を徹底し、倫理的な職場環境を作る。
6. 終わりに
人の出入りが激しい職場では、残された社員の負担が増え、さらに離職者が増えるという悪循環が起きます。
私が経験した職場でも、教育不足や労働環境の問題、人間関係の冷たさが原因で多くの人が辞めていきました。
しかし、職場が改善されれば、社員の満足度と定着率は大きく向上します。
薬剤師として安心して働ける環境を選び、自ら築く意識を持つことで、働きやすい未来を実現しましょう。本記事がその一助となれば幸いです。