長期収載品の選定療養に関する課題と改善案
長期収載品の選定療養における患者の理解不足と、それに伴う薬剤師の業務負担が、東京都薬剤師会の調査により明らかになりました。本記事では、調査結果をもとに現状の課題を整理し、その解決に向けた具体的な提案を行います。
選定療養における患者理解の現状
東京都薬剤師会は、2023年10月15日から21日にかけて、会員薬局の管理薬剤師462人を対象に、長期収載品の選定療養についての対応状況を調査しました。この調査によれば、患者の選定療養に対する理解度は非常に低いことが判明しています。
- 選定療養について「ほぼ理解していなかった」と回答された患者が62%と大多数を占めました。
- 一方で、「概ね理解していた」はわずか17%にとどまる結果となっています。
また、2024年10月から施行された本制度では、後発医薬品が存在する場合に先発医薬品を希望する患者が価格差の4分の1を特別料金として支払う仕組みになっています。この複雑な料金体系も患者理解を妨げる一因と考えられます。
説明時間と業務負担
選定療養に関する説明にかかる時間は、薬剤師にとって大きな負担となっています。
- 説明にかかった平均時間は「3~5分程度」が最も多く、56%を占めました。
- 一方、「3分以下」と回答した薬剤師も31%存在しましたが、最長の説明時間では「120分」に及ぶケースも報告されています。
特に、理解度が低い患者に対する説明は時間がかかる傾向があり、その結果、薬局業務全体に支障をきたす事例が多く報告されています。
トラブル事例とその影響
調査では、薬剤師が遭遇した具体的なトラブル事例も挙げられています。
- 「説明に時間がかかり業務に支障が出た」が70%で最も多い。
- 「料金が発生することに理解が得られなかった」が34%。
- 「疑義照会の数が増加」したケースが23%。
- また、[暴言などのハラスメントを受けた」薬剤師も12%にのぼりました。
これらのトラブルは、制度の内容が患者にとって複雑で分かりにくいこと、また、医薬品の選択に伴う料金の発生が納得されにくいことが主因と考えられます。
生活保護・公費負担患者の理解度
生活保護や公費負担を受ける患者に対しても、選定療養に関する説明が必要ですが、これらの患者層でも理解度は低い傾向にあります。
- 「概ね理解していた」は16%。
- トラブル事例では「説明に時間がかかり業務に支障が出た」が67%と、通常の患者と同様の課題が見られました。
さらに、harmo株式会社の調査では、選定療養制度の認知率は46.9%と報告されていますが、その内容を正しく理解している人は4割にとどまり、後発医薬品への切り替えを行った人はわずか15%という結果が示されています。
東京都薬剤師会の見解と制度改善の必要性
東京都薬剤師会の高橋正夫会長は、制度開始前に行ったPR活動が一定の効果をもたらしたものの、依然として患者の理解不足や薬剤師の業務負担が大きな課題であると指摘しました。また、「選定療養の対象となる医薬品と非対象医薬品の違いが分かりにくい」という現場の声も挙げています。
高橋会長は、国民にとって分かりやすい制度設計を求めると同時に、説明に要する時間や内容の改善が必要であると述べました。
課題解決に向けた提案
以上の調査結果と課題を踏まえ、以下の具体的な解決策を提案します。
1. 患者理解を促進するための取り組み
1-1. 分かりやすい説明資料の作成
- 対象医薬品と非対象医薬品の違いを図解で説明するリーフレットやポスターを作成し、薬局内に掲示・配布する。
- QRコードを利用して、簡単な動画や音声で制度内容を説明するオンラインリソースを提供する。
1-2. 制度内容の事前周知
- テレビCMやSNS広告を活用し、選定療養の制度内容を広く周知する。
- 地域ごとの健康イベントや薬局説明会で、制度について直接説明する機会を増やす。
2. 薬剤師の業務負担軽減
2-1. 説明支援ツールの導入
- AIチャットボットやFAQシステムを導入し、薬剤師が効率的に患者対応できる環境を整える。
- 電子カルテや薬局システムと連動して、選定療養の対象医薬品を自動的に提示する機能を追加する。
2-2. 簡略化された説明フォーマットの開発
- 定型文やテンプレートを活用した説明方法を標準化し、説明時間を短縮する。
3. 制度設計の見直し
3-1. 金額面での透明性向上
- 選定療養による追加料金の詳細を、患者が理解しやすい形式で表示する。
- 医薬品ごとのコスト差が一目で分かる資料を作成する。
3-2. 対象医薬品の選定基準の明確化
- 選定基準を患者にも分かる形で公開し、透明性を高める。
- 必要に応じて対象範囲を見直し、患者が選びやすい制度にする。
まとめ
長期収載品の選定療養は、患者理解の不足や薬剤師の業務負担といった課題を抱えています。東京都薬剤師会の調査結果は、現状の問題点を明確に示しており、これを改善するためには患者教育の強化、薬剤師のサポート体制整備、制度設計の見直しが不可欠です。
今後、調査結果が厚生労働省に提示されることで、より分かりやすく、利用しやすい制度設計への改善が期待されます。薬剤師と患者が双方にとって負担の少ない仕組みを構築するため、現場の声を反映した政策提言が求められています。
選定療養制度が導入されることで後発医薬品の利用が促進される一方で、現場の負担軽減や患者理解向上が鍵となります。これらの課題解決を通じて、持続可能な医療制度の実現が期待されます。