薬剤師エッセイ

薬剤師が直面する選定療養の現場課題:生活保護受給者の先発希望対応

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2024年10月から始まった「長期収載品の選定療養」。
制度変更に伴い、薬剤師は生活保護受給者からの先発医薬品希望や医療機関との連携に苦慮しています。
患者の不安に寄り添いながら、制度に則った対応を求められる場面が増えています。
本記事では、厚生労働省のガイドラインや実際の事例を基に、薬剤師が現場で抱える悩みや課題、考えた解決策を共有します。


選定療養と生活保護の仕組み

「選定療養」とは、患者の希望により通常の保険診療を超える医療サービスを選択した場合、その差額の一部を患者が自己負担する制度です。
2024年10月以降、長期収載品(先発医薬品)と後発医薬品の差額の4分の1が患者負担となる仕組みが導入されました。

しかし、生活保護受給者の場合、医療扶助の適用範囲が異なり、以下の原則が適用されます。

  1. 医療扶助の対象外となるケース
    医療上の必要性が認められない場合、生活保護法第34条第3項に基づき後発医薬品の使用が求められます。
  2. 医療扶助の対象となるケース
    医師が治療上必要と認めた場合には、先発医薬品も医療扶助の対象となります。
  3. 特別料金の徴収は不要
    選定療養に伴う差額負担は生活保護受給者には適用されないため、先発医薬品を希望する場合も追加料金は発生しません。

体験した事例:選定療養開始前後での変化

選定療養開始前の対応

選定療養導入前、ある生活保護受給者の患者さんの処方箋には「変更不可」のチェックと医師の記名・押印がありました。
そのため、当薬局では問題なく先発医薬品を調剤していました。患者さんは不眠症状を抱えており、「先発医薬品でないと眠れない」と訴えていましたが、その状況下では治療が適切に進んでいたと感じます。

選定療養開始後の対応

選定療養が始まると、同じ患者さんの処方箋には「変更不可」のチェックがなくなりました。
患者さんは引き続き「先発医薬品を使いたい」と希望しましたが、後発医薬品を調剤する以外に選択肢がありませんでした。

疑義照会を行いましたが、医師からの回答は以下の通りでした。

「治療上必要とは認められず、変更不可の記載はできません。」

選定療養が始まる前は先発医薬品に「変更不可」としていたにもかかわらず、制度が始まった途端にその対応が変わった理由が不明確であり、薬剤師として疑問を抱かざるを得ませんでした。


薬剤師としての葛藤と疑問

1. 医療現場での一貫性の欠如

選定療養が導入された途端に医師の対応が変わった理由が明確でありません。
制度変更に伴う患者負担を回避するためだけの対応であれば、治療の一貫性や患者への配慮が欠けているように思われます。

2. 患者への説明不足

医師が「薬局で相談して」と丸投げするケースが多く見られます。
変更不可のチェックを外した理由を、患者へきちんと説明していないことが問題です。
患者が納得しないまま、薬局で対応を迫られる状況は理想的ではありません。

3. 代替案の検討不足

他の薬剤への切り替えや治療法の見直しなど、患者の訴えに対する代替案が医療機関から提示されるべきです。
患者と医師の間で十分なコミュニケーションが取られているのか疑問が残ります。

4. 患者の心理的要素を軽視

精神疾患や不眠症を抱える患者さんにとって、薬の種類は心理的安心感に直結します。
それを「治療上必要ではない」と一蹴することが適切かどうかは、現場での慎重な議論が求められます。


患者の状況と薬剤師の立場

最終的に、患者さんは「ジェネリックで我慢する」と選択しましたが、「ジェネリックではどうしても眠れず、昼夜逆転している」と訴えています。
この状況下で薬剤師としてできることは限られています。

  • 治療効果の最大化への無力感
    患者の状態を考えれば、先発医薬品を処方する意義は十分にあると感じます。
    しかし、医師の判断が「治療上必要ではない」とされれば、薬局でできることは限られています。
  • 生活保護受給者の睡眠へのこだわりへの疑問
    睡眠の質を重視する患者の心理には、活動量の少なさや生活リズムの乱れが影響している可能性があります。
    しかし、それを単なる「嗜好」として片付けるのではなく、患者の訴えに耳を傾けることが大切です。


薬剤師が現場でできること

  1. 患者との丁寧なコミュニケーション
    患者の不安や不満に寄り添い、後発医薬品の効果や安全性についてわかりやすく説明します。
    また、選定療養の仕組みについても詳細に伝えることが重要です。
  2. 医療機関との連携強化
    疑義照会を通じて患者の心理的背景を具体的に伝えることで、治療方針を見直すきっかけを作ります。
    また、医師が制度の意義を正確に理解できるよう働きかけることも必要です。
  3. 制度への理解の促進
    選定療養に関する情報を薬局内で共有し、現場での対応力を高めます。
    医療機関と制度運用について話し合う場を設けることも効果的です。


結論:患者と医療の橋渡し役として

選定療養の導入は、医療費削減や患者負担の適正化を目的としていますが、現場では患者の心理的・生活的な問題に寄り添う姿勢が求められます。
薬剤師は患者と医療機関をつなぐ橋渡し役として、制度の範囲内で治療効果を最大化する努力を続けなければなりません。

医療現場での葛藤を乗り越えるためには、患者の声に耳を傾け、医療従事者間の連携を強化し、より良い医療を目指していくことが重要です。
薬剤師として、現場でできることを模索しながら、患者の生活の質向上に貢献していきましょう。