特定薬剤管理指導加算3は、薬剤師が患者に医薬品の適正使用や安全性について説明・指導を行った際に算定できる加算です。
しかし現場では、「供給不足」や「ジェネリック医薬品の勧奨」に伴う患者負担について疑問を抱く場面が少なくありません。
今回は、タリージェ錠を事例に、この加算にまつわる課題を深堀りし、現場の声から考えるべきポイントを整理します。
特定薬剤管理指導加算3の背景と対象
この加算は、患者1人につき最初の1回のみ5点(患者負担1~3割)が加算されます。主に以下の2つの場合に算定されます。
「イ」:RMP資材または安全性情報を活用した指導
- RMP資材(リスク管理計画)を活用して指導を行った場合。
- 緊急安全性情報(イエローレター)や安全性速報(ブルーレター)が新たに発出された際、安全性に関する情報提供と指導を行った場合。
「ロ」:供給不足や医薬品選択の説明
- 医薬品供給不足による銘柄変更に伴う説明。
- 先発医薬品を希望する患者にジェネリック医薬品を勧める際の説明。
薬剤師が正確な情報を患者に伝え、適切な選択をサポートする重要な業務ですが、現場ではいくつかの課題が浮き彫りになっています。
タリージェ錠の事例:RMP資材がもたらす影響
1. RMP資材に記載された注意事項
タリージェ錠のRMP資材には、患者向けに次のような注意事項が記載されています:
- 「めまいや眠気、まれに意識消失」
「気になる症状があらわれた場合には必ず医師にご相談ください。」 - 「自動車の運転等の危険を伴う機械の操作をしないでください」
「特に高齢の方は転倒のリスクがあるため注意してください。」
これらの記載は、患者の安全を守るために重要です。
しかし、副作用リスクが強調される一方で、患者が治療をためらう原因になるケースがあります。
2. 患者の行動とその影響
治療を避ける理由として挙げられた患者の声
- 副作用リスクによる服薬回避
- 声:「めまいや眠気が出る可能性があると書かれていて、日中の仕事に影響しそうなので朝は飲んでいません。」
- 結果:治療効果が十分に得られず、症状が改善しない。
- 車の運転を控える必要があるとの誤解
- 声:「車を使う生活をしているので、『運転をしないで』と書かれていると、生活に支障が出るので飲めません。」
- 結果:治療を回避し、痛みが悪化するリスクが高まる。
- リスクを過大評価
- 声:「『まれに意識消失』と書いてあるのを見て、倒れたらどうしようと思い薬をやめました。」
- 結果:治療を中断し、痛みが長期化する可能性がある。
3. 薬剤師としての対応
薬剤師は、患者が安心して治療を続けられるよう、以下の対応を工夫する必要があります:
- リスクの頻度を具体的に説明する
「めまいや眠気はまれに見られる程度で、ほとんどの方は問題なく服用されています。」 - 治療効果のメリットを伝える
「タリージェ錠は神経障害性疼痛を和らげ、生活の質を改善します。副作用が心配であれば、いつでも相談してください。」 - フォローアップ体制を強化する
資材を読み返した後に不安を感じる患者が多いため、追加説明や相談の場を設けることで治療の継続を促します。
供給不足とジェネリック医薬品勧奨の課題
1. 供給不足への対応
医薬品供給不足により、薬局は次のような業務を行います:
- 代替薬の調達:「前回と異なる銘柄を取り寄せ、変更理由を説明。」
- 患者への変更説明:「成分や効果は同じです」と理解を促す。
課題
- 患者負担の公平性
供給不足は製造業者や物流の問題であり、患者に非がありません。
しかし、これによる説明で加算が発生するのは疑問に感じます。
2. ジェネリック医薬品勧奨の課題
先発医薬品を使用している患者様にジェネリック医薬品を勧める際にも5点の加算が発生します。
薬剤師は以下の対応を行います:
- 価格差や効果の違いを具体的に説明
「先発医薬品とジェネリック医薬品は同じ成分ですが、価格はこちらの方が安くなります。」
例えば、先発医薬品が1,000円である場合、ジェネリックは300円程度になるケースを具体的に示すことで、患者が納得しやすくなります。 - 患者に選択肢を提示
「選択は患者さんご自身の判断です。どちらを選んでも適切に効果が得られます。」
薬剤師としての視点:疑問と考えるべき点
現場では次のような疑問が感じられます:
- 供給不足が続く中での加算の意味
供給不足は患者の責任ではないにもかかわらず、その説明に加算が発生することに違和感を覚えます。 - ジェネリック勧奨の加算の持続性
医薬品費用削減が進む中で、ジェネリック勧奨加算は一時的な制度に思えます。
まとめ:現場の視点から考える
特定薬剤管理指導加算3は、薬剤師の業務を評価する重要な制度です。
しかし、現場では制度運用に対して疑問を感じることが少なくありません。
患者負担が直接的に明示されることは少ないものの、説明内容や背景を考えると、現場で働く薬剤師として疑問に感じる部分があります。
患者一人ひとりに適切な説明を行うことが薬剤師の役割である一方、制度設計の意義や公平性についても考え続ける必要があります。
薬剤師として、この課題にどう向き合うか、現場から問いかけを続けていきたいと感じます。